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一戸建てに作られた、生活に溶け込む「くつろぎの茶室」

家の奥、素敵な茶庭に面した場所が茶室になっています。

17年前、埼玉県北浦和に家を新築した際、いつでも茶事が楽しめるようにと、自宅内に茶室を設けた作庭家の高橋良仁さん。もちろん庭はご自身の設計・施工。茶道を始めたきっかけは、作庭家として茶道全般を学びたいと思ったことから。「始めてみたら日本の代表的な文化、茶道の奥深い芸術性に魅力を感じ、本格的に習うことにしました」(高橋さん・以下同)。

石州流の茶道歴31年という高橋さん。

キッチンの奥に作られた4帖半の茶室は、静寂で凛とした空気が漂う癒やしのスペース。「茶庭から席入りした客と主が、茶室で一服の茶を囲みながらゆったりとした時間を共有するのが茶事。気ぜわしい世の中の喧騒から離れて、非日常を味わえる特別な空間が自宅にあることがなによりの醍醐味です」

目次

茶事の伝統形式を取り入れつつ、
居住スペースと同じ素材を使用するなど
ひとつの家としてまとめる工夫が大事

お点前をする座の天井より、正客が座る床の間前の天井を一段高くし、主人の心遣いを表すのが流儀。設計: (IKEDA建築設計室 池田尚司氏~鎌倉・鶴岡八幡宮や久伊豆神社などを担当)

茶事とはお茶を飲むだけの茶席と違い、4~5時間かけて懐石、濃茶、うす茶の順にもてなす正式な茶会のこと。設計者の池田尚司さんによると、茶室入り口から見た配置は、上座床 (主が座る点前座より上に床の間)、本勝手(点前座の右に客)という伝統的なお作法の形式を踏まえつつ、家族が生活する専用住宅の一室であることを意識して、住宅側の廊下と同じ檜縁甲板を茶室の点前座上の天井に使用するなど、居住空間とのつながりを意識した素材を使用したそう。「一期一会の精神で、誠心誠意おもてなしをするのが流儀。多くは語らずとも一服に思いを込める、そんな小手先では作れない日本文化の神髄を体感できるのが茶室ですね」

掛け軸は友人の書道家の作品。庭に咲く山野草が花瓶の定番。床の間が明るく見えるように、墨蹟窓(床の間脇の明かり窓)を作り、床柱には白色の錆丸太を使う工夫を。

リビングから住宅街とは思えない
茶庭が楽しめることも魅力のひとつ

リビングの窓越しに見えるのは、非日常的な趣きが美しい茶庭。「周りを石垣で遮断して住宅街の一角とは感じさせない異空間に仕上げました」。日本の伝統美が随所に詰まった茶庭はまさに別世界。眺めているだけで、古寺にワープしたような感覚になれます。

キッチンには茶事を準備する
スペースもしっかり設置

キッチン内に作られた水屋と呼ばれる流し付きの器具収納スペース。ここで茶事の前準備をするそう。左奥が茶室になっています。

茶道仲間の庭師が集まり
年に数回勉強会的な茶事を楽しみます

(画像:高橋さん)

高橋邸の茶事に集まるメンバーは庭作りを職としている皆さん。食事は仕出しの懐石料理にオーダー。夏は朝茶、秋は名残の茶事、冬は夜咄しの茶事など、季節ごとにスタイルが変わるので、年に3~4回集まるそう。

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撮影終わりに茶道師範でもある高橋さんに、薄茶のお点前を披露していただきました。茶道に縁のないスタッフでしたが、茶室に正座をしてお茶をいただくと、自然と穏やかな気持ちに。「茶道は心を伝えるもの」という高橋さんの思いが伝わる、癒やしの空間でした。自分にとって大切な趣味を家に組み込むことは最高の贅沢。でも、やるならこのくらい本気で取り組まないと中途半端になってしまうのかもしれませんね。

(撮影/相澤琢磨)

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