春から初夏にかけてが旬の“新じゃが”。水分量が多く、普段のじゃがいもより風味が豊かなのが特徴です。そして皮が薄いのでそのまま調理するのがおすすめ。例えば、丸ごと素揚げにして塩を振っていただいたり、醤油やみりんで甘辛く煮てみたり、肉じゃがも甘みが増していつもよりずっとおいしくいただける季節です。そんな新じゃが料理にぴったりの器とは?
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高く盛り付けたい新じゃがに
ぴったりなのは“中鉢”の器
「コロコロとした表情が可愛らしい新じゃがは高さを付けて盛り付けるととても映えると思います。そんなときに便利なのが『中鉢』と呼ばれる器です。『中鉢』は、深さのある器で、和食器のサイズで6寸~8寸というサイズで表記されることが多いですね。なかでもこの6寸の中鉢は、丼使いもできて使いやすい大きさです」と雨晴の主人、金子憲一さん。
またこの「中鉢」の器は、和食の基本となる煮物料理に最適な形で、とても汎用性が広いそう。「和食は煮汁やお出汁と一緒に楽しむことが多いですが、そんなときに深さがある『中鉢』はとても便利です。また煮汁と一緒に盛り付ける料理のほかに、酢の物や和え物、またサラダを盛り付けるにも便利に使える基本の形。ひとつあるだけでテーブルの上がぐっとセンスよく仕上がる万能な器。最初に揃えるなら、この『中鉢』がおすすめです」
皮付きで食べたい新じゃがの
素材感が引き立つ、シンプルな佇まいで
釉の色味を楽しめる器をセレクト
今回、金子さんが中鉢の器として選んでくれたのは、グレイッシュな色味の釉がかかった「雨雲唐津」と名付けられた器。こちらは唐津で制作されたものですが、陶器ではなく磁器、つまり石を材料に作られたもの。「磁器は陶器よりも吸水性が少なく染みになりにくいため、汁物料理にぴったりです。また土で作られた陶器よりも、薄手に仕上げることができるので凛とした佇まいも特徴です。この『雨雲唐津』は、磁器でありながら釉薬の風合いも楽しめるのが素敵なところでもあります。例えば、皮が薄い新じゃがは、皮付きのまま調理するとおいしいですが、器のシンプルな佇まいが食材の素材感を引き立ててくれます」と金子さん。また『雨雲唐津』は、梅雨時の今にも雨が降り出しそうな雨雲をイメージして作られた器だそう。「縁を見ると、釉の溜まりがあり、今にも雨が降り出しそうな雰囲気です。手仕事から生まれる和食器は、このようにひとつひとつ違った表情が楽しめるのも魅力のひとつです」と器選びの楽しみも教えてくれました。
料理を盛り付けてさらに美しさが増す
作家・土屋由起子さんの器
この「雨雲唐津」を手がけたのは、佐賀県・唐津で作陶する由起子窯の土屋由起子さん。彼女が手がける、シンプルでおおらかな表情の器は「料理が映える」とプロの料理家たちにも大人気です。土屋由起子さんは、古くから茶人たちに愛されてきた唐津焼で有名な唐津の出身。学生時代に焼き物を学び、唐津焼で有名な陶芸作家、中里隆さんのもとで腕を磨きました。「土屋さんの代表作のひとつに黒唐津があります。黒唐津とは古くから唐津焼で作られてきた釉で黒く仕上げる技法なのですが、その黒の美しさに惹かれて、以来ご自身で研究を重ねてきたそうです。しっとりしていたり、艶やかだったり、さまざまな黒を楽しませてくれる器は、料理人の方にもとても人気がありますね。また土屋さんの器の魅力はなんと言っても、どんな料理もおいしく見せてくれるおおらかな表情です。ご自身で作った器は実際に使って、その工程を繰り返しながら食卓に馴染む器を手がける作家さんです」と金子さん。モダンな器の表情を楽しみながら、料理を盛り付けたときにそのよさを実感できる、まずはそんな器から揃えてみるのはいかがですか?
(撮影/吉澤健太)