リノベーションのきっかけは、奥さまのご実家でお父さまとの同居を決めたこと。1階は、今まであった部屋をひと続きの広いLDKと玄関にし、寝室を増設。2階はお父さまが暮らすスペースとし、新たに子供部屋を増設。玄関も2つに分けることでプライベートを確保しつつ、広いリビングが家族のつながる場所になっています。この家で育った奥さまにとって、ここは思い出がたくさん詰まった場所。そのなかでも、自然を近くに感じていた庭と、今は亡きお母さまを思い出すキッチンは、これまでの面影を残すことにしました。
以前からある木々を残しながら
屋内から庭にアクセスできるデッキを新設
奥さまが子供の頃の庭は、ブランコやうんていなどが置かれ、よく庭で遊んでいたそう。「家に来客が多かったこともあり、庭で遊ぶことが多かったのですが、中学生くらいになると私にとっては、両親が家庭菜園をしている横で、蚊に刺される場所になっちゃって(笑)。しばらく手を入れていなかったのですが、子供ができてからは、もっと気軽に楽しめる庭にしたいとずっと思っていました」(奥さま以下同)。 さらには湿気対策として高床に設計されていたこともあり、地面との段差が大きいことも悩みでした。庭の木々は極力残しつつ、屋内から気軽に庭に出てられるウッドデッキを作ることで、その問題も解消。リビングやダイニングに沿って設置されたウッドデッキ伝いにどの部屋からも楽に庭へ出ることができます。
「最初はもう少し広いデッキスペースにする予定だったのですが、人の手が入りすぎていない土の庭で遊ぶ子供たちがすごく楽しそうで。子供が小さいうちは、この自由気ままに遊べるスペースも残したい、さらに遊具も作ってあげたいと欲張った結果、この緑を残したデッキとブランコ型のベンチに落ち着きました」
料理が好きだった母の思い出が残る
L字型のキッチンスペース
キッチンは料理が好きで、人を招くことも大好きだったというお母さまとの思い出のスペース。「実はリノベーションにあたり、何度もI型キッチンを提案されたのですが、母が愛用していたL字型にこだわり、同じ形で作り直しました」。キッチンを囲んでいた吊戸棚はすべて取り払うことで、他のスペースとのつながりも生まれました。手元だけは隠れるようにBARカウンターを設置。「カウンターに合わせたのは、新婚当初に購入したお気に入りのBARチェア。今回の新しいキッチンタイルも、このチェアと同じパトリシア・ウルキオラが手掛けたものです。施工は、長女の同級生のタイル屋さんにお願いして、子供たちも一部お手伝いさせていただいたんです」
黄色い食器棚は、35年前に設置したものをそのまま残しました。「棚と、その横にある白い扉のパントリーもそのままで、呼び方も昭和そのままに“食品庫”です(笑)。子供の頃の家庭科の授業で、私のお弁当が栄養バランス№1に選ばれたことがあるほど料理好きだった母。友人が遊びに来ると、急でも手際よく手作りのオヤツを出してくれたり、そんな思い出の詰まったキッチンを壊すのは寂しすぎて、できるだけ残すことにしたんです」。
大切な思い出に囲まれながら、新しい暮らしを楽しむ家。そんな素敵なリノベーションを叶えたSさんのお住まい。「子供の頃の思い出を残しつつも、今の私たちらしさもしっかり反映されたこの家は、どこにいても本当に居心地がいい。この環境を残してくれた両親と、思い出を残しつつ上手なアレンジを考えてくれた主人に感謝しています」
(撮影/松本有隆)