何を食べてもおいしい!と感じる食欲の秋。なかでも多くの人が楽しみにしているのが秋の味覚のひとつが“新米”ではないでしょうか。水分量が多くもちもちした食感はこの季節だからこその特別な味わいです。店頭で新米のシールが貼られたお米を見るだけで食欲が湧いてきますね。今回は、新米のおいしさを引き立ててくれるごはん茶碗を選んでみます。
目次
高台が広く持ちやすい沖縄のマカイ
土の質感がごはんのおいしさも引き立てる
「毎日の生活に欠かせないお米。ご飯茶碗はほぼ毎日食卓に並ぶ器のひとつではないでしょうか」と、雨晴のご主人、金子憲一さんが手にしたのは沖縄の読谷村で作陶をする壹岐幸二さんの器。「ごはん茶碗としておすすめしたいのは、沖縄で古くから“命の器”と呼ばれ、日用雑器として親しまれている“マカイ(※沖縄の方言でお碗の総称)”です。ごはん茶碗として使うものを飯マカイ、汁物には汁マカイ、また沖縄ソバなど麺類ではそばマカイなどと呼びますが、どれも形の基本は同じ。ごはん茶碗として使えるのは4寸サイズのものになります。マカイの特徴のひとつが高台と呼ばれる器の足元に広さがあることです。ごはん茶碗は手で持って食べますが、このマカイを手にしてみるとその安定感に驚きますよ」。子供でも持ちやすく、まさに日用の器にぴったりです。
「さらに沖縄の土で作られた壹岐さんの器は質感がとても豊かなことも魅力のひとつ。ごはんをよそったときに、白米の温かさと質感の温もりを同時に感じることができ、おいしく食事ができることに喜びを感じさせてくれます」
デザインのルーツは約400年の
歴史をもつ湧田焼!
伝統技法による独特の柄が食卓に映えます
この器は、沖縄で約400年前に始まった湧田焼がルーツ。「沖縄では当時、効率よく生産するために、器の中央部だけ無釉、つまり釉薬をかけずに器を重ねて焼いていました。釉薬がかかっているところとそうでないところのコントラストがまるで目のように見えるのが湧田焼の特徴で、伝統的な意匠のひとつです」。今回ご紹介する「陶器工房 壹」では現在もその技法を継承していて、中心に点打ちと呼ばれる湧田焼の意匠をそのまま目玉に見立ててデザイン。沖縄の方言で目玉という意味をもつmintama(みんたま)シリーズを生み出しました。そしてペルシャブルー、メタリックなブラック、鮮やかな赤と、和食器としては斬新でモダンなカラーバリエーションも魅力のひとつ。
「メタリックな黒は、壹岐さんのお気に入りの釉薬のひとつで、料理が映えて、とてもモダンな印象です。赤は壹岐さんがオリジナルで開発した色ですが、夏のスパイスの利いた料理から、正月料理などハレの日にも使える上品な色使いですね」
器の中央部にうっすら残る丸い円は器を重ねた跡。「沖縄の焼き物らしい趣きとして楽しんでほしいですね。また陶器は温かい食べ物をよそうときには温かいお湯を、冷たい食べ物をよそうときは冷たい水を十分に含ませてから使うことをおすすめしています。しっとりした器に盛り付けたお料理はよりおいしそうに見えますし、油などの染みも付きにくくなるため器も美しく育っていきます」とのこと。
琉球王朝時代の湧田焼に魅せられ
力強くモダンな器を手掛ける
沖縄の作家、壹岐幸二さん
今回ご紹介したmintama(みんたま)シリーズを手掛けるのは、沖縄県読谷村に工房を構える「陶器工房 壹」の壹岐幸二さん。壹岐さんは京都のご出身ですが、沖縄県立芸術大学への入学を機に沖縄へ移住し作陶されています。「沖縄が独立した国だった頃の古陶に魅せられ、なかでも琉球王朝時代の湧田焼や卵の殻のような白い焼き物を見て、こんな器を作りたいと思ったそうです。沖縄の古陶に想いを馳せながら生み出した壹岐さんの作品は、沖縄の焼き物のルーツを感じる力強さをもちながら、モダンな印象なのが魅力です。特にその佇まいは、全て手作業と思えない正確さで作られ、驚くほど洗練されています」
陶器のもつ温かみと、モダンなデザインがバランス良く同居するその姿は、まさに現代の食卓にぴったりの器。炊き込みごはんやお茶漬けなどにも合いますが、まずは秋の贅沢な味覚、炊きたての新米をよそって味わってみませんか?
(撮影/大場千里)