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「眠れない」は心の問題?体の問題?

睡眠に悩む人が増えている背景としては、24時間社会における生活リズムの乱れや、ライフスタイルの多様化などさまざまな要因が考えられます。さらに、厚生労働省発表の「仕事や職業生活でストレスを感じている」人の割合が、1982年の50.6%から2021年には60.9%へ増加していることからも分かるように、ストレス社会と言っても過言ではない状態です。ストレスから引き起こされる心の反応は、うつ病などの深刻な病気につながる他、眠れない問題も引き起こします。一般社団法人睡眠body協会代表で理学療法士の矢間あやさんに、説明していただきました。

「精神整理性不眠症」という言葉ご存じでしょうか?

言葉だけ見ると、重大な病気のように思えますが、何かのきっかけで夜眠ろうとしても寝付けず、それ以来、「今日も眠れないのではないか」という不安と緊張が強まり、眠ろうとすると焦り、かえって興奮して寝付きが悪くなるを繰り返す眠れない症状のひとつです。面白いのが、寝室では寝付けないのに、居間のソファでテレビを観たり、読書をしているときなど「眠ろう」と頑張らないときには眠れるのです。この「精神整理性不眠症」の特徴のひとつに「身体化された緊張」という特徴があります。

今晩も眠れないのではないかという眠りに対する不安や、絶対に眠らなければとベッドに入る時間を必要以上に早くしたり、眠くもないのに横になって時間を引き延ばすなど、過剰な努力をすることが、結果としてベッド上での身体的な緊張を引き起こし、さらに眠れない状態を悪化させてしまうものです。これは、眠れないかもしれないという心理的な問題が、身体的な緊張を引き起こしている典型的な例です。

目次

過度なストレスや緊張は
体にも影響を与える

実際にこんな経験はありませんか? 不安や悲しみ、緊張などから気分が落ちこみ元気がなくなったとき、肩や背中に力が入っていたり奥歯を噛み締めていたり、イライラして怒りっぽくなったときに、無意識に手を握りしめていたり眉間に力が入りシワが寄った表情をしたり。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。これは心の問題が体に現れている証拠です。さらに、体を緊張させ続けていたら、息苦しさを感じたり、フラフラしたり、大きな病気があるわけではないが、めまいや冷や汗をかいたり、力を入れすぎて手足のしびれを感じたことは誰にでもあるのではないでしょうか?

これらは、不安や悲しみ、緊張などから気分が落ちこみ元気がなくなったり、イライラして怒りっぽくなる「心の問題」ですが、同時に体にも影響を与えている証拠です。体は無意識に緊張状態が続くと、私たちの体を無意識で調整・コントロールしている自律神経の活動がうまく機能しなくなります。自律神経とは、私たちの体を24時間自動的にコントロールしてより良い状態にするために働いている神経です。

今度は体の緊張が
心のバランスを乱し不眠の原因に

過度な体の緊張は、自律神経のバランスを崩してしまいます。自律神経には2つの働きがあり、昼間活発に活動するときに活発に働く「交感神経」と、安静時や夜に活発になる「副交感神経」があります。この交感神経と副交感神経がそれぞれがバランスよく24時間、自動で働くことで私たちの健康はたもたれています。緊張状態が続くと言うことは、交感神経が優位な状態が続く、つまり常に興奮状態であると言えます。夜眠るためには、副交感神経が有意になりリラックスの状態になっていなければなりませんが、活気あふれる状態が続いていれば、当然眠くなりにくいということです。
(出典:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)

この様に、心の問題が体に与える影響は大きく、体の緊張は眠れない問題に発展していくのです。オーストラリアの精神分析家、ヴィルヘルム・ライヒは、この心の緊張が体の緊張につながることを「筋肉の鎧」と表現し、体の筋肉を硬くすることで、心理的な感情を感じないようにし、自分の心を守っていくと言っています。

まず体の緊張を解きほぐすことが
眠れない問題解決への近道⁉

心の問題を解決することはとても大切です。しかし、モヤモヤと目に見えない心の問題を解決するのは大変難しいのですし、心の疲れや自律神経の乱れは誰にでも起こることで、不眠の原因になっているかどうかを判断するのは非常に難しいことです。それに、心の問題は本人の気持ちや考え方自体も強く影響を受けるので、実際に心の問題だと理解し難いこともありえます。そこで、体からアプローチすることで眠れない問題の解決になり、結果的に心へのアプローチにもなる方法を提案します。言い換えれば、体の緊張を緩和すれば、心の問題も睡眠の問題も自ずと解決すると言うことです。

①筋弛緩法(漸進性筋弛緩法)

この方法は、約100年前、アメリカの精神科医エドモンド・ジェイコブソンが開発したものです。体の各部位の筋肉を10秒緊張させた後、ストンと一気に力を抜くを繰り返し、体の緊張を改善するというものです。電車やオフィスなど手軽に行うことができるのでおすすめです。

※詳しい方法は、協会けんぽ「筋弛緩法で体をゆるめて、心もリラックス」を参照

②ごろ寝リセット

2つ目が、私が提唱する方法です。これはまさに、筋肉が凝り固まった状態を緩和する目的で、リハビリのなかでも使用してきました。実際に腰痛患者さんの宿題としても使用していた方法です。自宅にあるバスタオルや毛布を使用して、ブランケットロールを作り、その上にごろりと寝るだけの簡単な方法です。ごろ寝リセットを始める前に床の上で背中と床の状態を確認してください。そして、ごろ寝リセットを実施後、改めて床と背中の状態を確認すると、接地面積が少なかった背中と床の関係が、接地面積が大きく感じたり、床が柔らかく感じたりと変化がよく分かりますよ。
※詳しい方法は、ダ・ヴィンチニュース「寝る前のたった5分で寝起きスッキリ! 超簡単「ゴロ寝リセット」で睡眠の質を改善【やってみた】」を参照。

※もっと詳しく知りたい方は、矢間あや著「ゴロ寝リセット」をチェック!

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もちろん、散歩やストレッチなど日常的に軽い運動をすることも、眠れない問題解消に役立ちます。人間の体は動くようにできています。動くことはストレス軽減にもつながると研究の結果からも分かっています(※参照:厚生労働省「休養・こころの健康」)。現代は、便利と引き換えに動かない生活になりました。日中太陽の光を浴びながら動くことで、ストレス改善にもつながり眠りの問題の改善にもつながります。体を整えることで、眠れない問題を軽減することができ、さらに心を穏やかに保つことにも結びつきます。体を健やかにたもつことは、心の健康にもつながると覚えておいてくださいね。

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