心地よい木の香りが漂うK邸は、構造や建具のほとんどに杉を使った木造の注文住宅です。ご主人が目指したのは、和風に寄りがちな木造住宅をできるだけモダンにすること。経年変化を楽しみつつ、家全体のシンプルな統一感にこだわった住まいのアイデアを伺いました。

(写真提供・施工:小林住宅工業 デザイナー:高根沢明宏氏~陽の光と風の流れを活用し、その人にとって快適な生活動線のプランニングに定評があり)
4歳と1歳のお子さん、奥さまのお母さまと5人暮らしのKさんご夫妻。子供が騒いでも気にならない環境がほしいと、3年前に住み慣れた相模原に約40坪の一軒家を新築。「北海道出身だからか、日本ならではの自然素材や手仕事への愛着が強く、風化や経年変化を楽しめる木の家を造りたいと思ったんです」(ご主人)。そこで化学建材を使わず自然流住宅をコンセプトにしている工務店を探し、無垢の杉をベースにした家に決定。「木の家=和風というイメージを変えたくて、できるだけモダンに見えるよう私自身も素材を探したり、工務店にも細かくデザインのリクエストを入れて、納得がいく住まいになりました」。仕切りがなく開かれたLDKに感じるのは、優しい木の温もりと現代的なデザインの融合。ご主人こだわりの和モダンに仕上げた空間が広がります。
目次
構造や建具、障子戸まで
直線ラインを生かすことで手に入れた
シャープな美しさのあるリビング

開放感いっぱいの空間を作り出しているのは、新潟の工務店にオーダーした木製サッシの大きな窓ガラス。細長い枠がモダンな印象を強調する特注の障子には、破けにくいワーロン紙を使用。イスと机は、好きな北欧家具のアルテックで購入。
庭を見渡せるリビングは、天井が高く広々とした空間。「部屋をすっきりさせるために、視界に入る要素はできるだけ減らしたかったんです。例えば窓枠や柱の幅木も目立つのが嫌だったのでデザイナーさんに相談し、細部まで調整してもらいました」 (ご主人)。意識したのは直線の美しさ。基礎や建具にはアール(丸み)をいっさい使わず、縦のラインを強調したことで、よりシャープでモダンなリビングに仕上がったそう。天井にはタルキ(構造がむき出しになること)風のデザインを採用し、太くまっすぐに伸びる梁の縦ラインがシンプルな空間に映えて、精悍な印象を与えます。リビングにある家具は、今のところ簡易的に置かれたイスとテーブルだけですが、特に不便さを感じていないそう。「無垢の木なので、子供が床にごろごろしても安心なのがいいですね。上の子が小学生ぐらいになって必要だと感じたら、ソファを揃えようかと思っています」(ご主人)
- 電球が丸見えにならないように、蛍光灯は梁の中に収納。エアコンは三菱。本体の角が丸くない製品を探し、形優先で選んだそう。
- 本来なら外に出ている窓枠を、中に埋め込んで見えない造りに。余分な凹凸を減らすことで、空間がより広く見える効果があります。
- 柱の幅木が目立たないように、通常の幅に比べ1/3程度細めに設計。シンプルさへのこだわりに、ベテランの大工さんも困惑したとか。
隠す収納で生活感をカットしたキッチンの
主役は杉の一枚板で作ったテーブル

生活臭が出てしまう冷蔵庫は、奥のコーナーに設置し、リビングやダイニングにいても視界に入らないように工夫。白壁は脱臭効果がある珪藻土を使用。水栓はドイツ「グローエ」社製のもの。
すっきりと部屋全体が見渡せるダイニングは、リビングと同じウッディなトーンに統一されていて、お洒落カフェのような雰囲気。「キッチンの建具も全て無垢の杉を使い、縦ラインを意識しています。シンクと組み合わされたダイニングテーブルは、一枚板でオーダーしました。アイランドキッチンの変化球バージョンです」(ご主人)。驚かされるのは、目に見える場所に物が何ひとつ出てないこと。生活臭が苦手なご主人ときれい好きな奥さまの意見が一致し、調理家電や器具、調味料、ふきんにいたるまで、あらゆるものを棚で隠せるキッチンに。「小さい瓶のサイズまで1点1点測って、棚の高さや幅を使いやすいようにオーダーしました。家事がしやすくとても助かっています」(奥さま)。キッチンに立ったとき、周りに壁がないので、子供が何をしているかが見渡せるところも奥さまのお気に入り。実用性と美的さを兼ね備えた、主婦憧れのキッチンです。
- 奥さまのお母さまと同居しているので、二人が同時に作業しやすいよう、あえてIHとシンクを対面にしたそう。
- 棚の中に整然とならぶ食器。スペースをとらないように引き戸にし、必要に応じて段差を自由に変えられる設計に。
天然素材を生かしつつ
直線を意識することで建物と
一体感のあるシンプルな庭

庭の広さは約20坪。800㎏もあるダイナミックな沓脱石が庭のシンボル。男性的で武骨なものが好きだというご主人の嗜好に合わせて、自然石のを探しました。
リビングの窓を開けると、張りだした縁側の先に広がるのは芝が気持ちよさそうな庭。作庭を担当したのは、以前に記事で自宅のお庭を見せていただいた、庭良代表 高橋良仁さん。「軒下の部分を花こう岩の棒石で仕切り、大きな沓脱石(くつぬぎいし)と割栗石(わりぐりいし)を敷き詰めることで、建物の裾部分に安定感を持たせ、家と庭が協調的につながるようにしました」(高橋さん)。芝を取り囲むウッドフェンスで周囲の空間と区切りをつけることで、芝と石だけのシンプルな庭の世界観が、いっそう引き立ちます。
- 庭の周りを囲むウッドフェンスは、理想の幅を見つけるまでに、いくつもサンプルを取り寄せて吟味したそう。(画像提供:庭良)
- 庭へと続くエントランス。直線美を持つ敷石を置き、植栽をして緑の面積を増やすことで、一味違った空気感を作っています。
◆理想のマイホームライフをエンジョイ中!◆

休日はお気に入りの縁側で娘さんとのんびりタイム。我が家の良さを実感できるひとときなんだとか。
人が集まる家にしたかったというKさんご夫妻。「季節がいいときは、仲間を呼んでバーベキューが定番。走り回っている子供たちを見ながら、ビール片手にワイワイするのが最高のパターンです」とご主人。夏は涼しくて冬は暖かいという木の家は、住環境としても最高。二人のお子さんに手のかかる奥さまも、「居心地がいいので、家にいると日々のストレスが解消できますね」と笑顔。自然素材の良さとモダンなデザイン性が共存しているこの家は、2019年9月に岡山の建具メーカー「イマガワ」の施工事例コンテストで最優秀賞を受賞したそう。シンプル・イズ・ベストのすばらしさを改めて感じた、快適で素敵な木の家でした。
(撮影/石田純子)