【白金台「雨晴」の主人に聞く和の器選び】鍋がおいしくなる、伊賀土の土鍋

素朴な表情ながら温かみがあって、ちょっとした料理も引き立ててくれる和の器。でも、どれを選べばいいのか分からなくて敬遠していませんか? ここでは、白金台で和食器を中心にセンスのよい工芸品を取り扱う「雨晴」の主人に、旬の食材や料理に合わせた器選びの考え方を教えていただきます。今回の題材は、寒い季節の必須、鍋料理に欠かせない土鍋です。

「やまほん陶房」 土鍋八寸(W32×D25×H14㎝)8,640円(税込)

定番の水炊きに、もつ鍋、きりたんぽ鍋。ちょっと趣向をこらして雪見鍋やトマト鍋、カレー鍋などなど。どんな食材を入れてもおいしくいただける鍋料理。野菜もたくさん食べられて、調理も簡単、体もぽかぽかして、寒い季節に大助かりの料理ですよね。今回、ご紹介するのはそんな鍋料理をさらにおいしく仕上げてくれる、とっておきの土鍋です。

目次

伊賀土特有のたくさんの気孔が
食材のうま味をぐっと引き出す

小さな穴が開いているようにも見える伊賀土特有の土肌。この土のおかげで耐熱性が高まり、食材にじっくりと火が通るそう。

おすすめしてくれたのは、三重県伊賀で作られた「やまほん陶房」の土鍋。定番鍋料理がワンランクアップする土鍋だなんて、これは気になります。「この土鍋は伊賀土だけで作られているのが特徴。伊賀地方は、はるか昔、琵琶湖の湖底だったと言われています。そのため伊賀の陶土にはさまざまなプランクトンなどの遺骸が含まれているのですが、この伊賀土で作られた土鍋は焼成時にそのプランクトンなどが燃えて細かな気孔ができあがります。この細かな気孔があることで、耐熱性に優れ、調理時には鍋全体に火がまわり、食材の芯までじっくりと熱が入る土鍋ができあがります。野菜などもうま味がぐっと増して、同じ食材で作った鍋料理も仕上がりが全然違ってきますよ」(雨晴主人 金子憲一さん 以下同)

いろんな鍋料理を楽しみながら
使い込むごとにどんどん強く育つ土鍋

使い始めは底に貫入が入ってくるが、使っているうちに貫入はふさがり強い鍋へと成長するそう!

通常、土鍋を作るときには焼成時に割れないようペタライトと呼ばれる鉱物を混ぜるのですが、伊賀土は耐火性に優れているためペタライトを混ぜずに作ることができます。「伊賀の土鍋はその耐火性から直火にかけられる鍋として昔から愛用されてきました。粗土である伊賀土だけだと形成にも手間がかかりますが、『やまほん陶房』では今でも、伊賀土だけで土鍋を作り続けています」。
また伊賀土で作られた土鍋について「ゆっくり育てる土鍋として楽しんでもらいたい」という金子さん。「まず使い始めにはおかゆを作って目止めが必要です。土鍋の気孔をふさいでおくことで割れを防いだり、食べ物の汚れなどが染み付かないようする役目があります。また使い始めると貫入(小さなひび割れ)が入ってきますが、これは使っているうちにふさがり、より強い鍋へと成長していきます。いろんな鍋料理を楽しみながら、じっくりゆっくり鍋を育てていってください」

冬の食卓を美しく彩る
手仕事から生まれる精巧なフォルム

「この土鍋を手掛けるのは『やまほん陶房』の山本忠正さん。三重県伊賀市に生まれ、金沢で彫刻を学ばれています。その後京都で焼き物を学び、1999年に家業である『やまほん陶房』を引き継がれました。山本さんは作家としても活躍されていて、彼が手掛ける土鍋は性能はもちろんですが、そのたたずまいもとにかく美しい。ひとつひとつ手作業で作られていますが、すっきりと精巧なフォルムは見る度に驚かされます。どんな鍋料理も本当においしくいただけますが、僕のお気に入りはシンプルな湯豆腐。食材の味わいも、料理の美しさもぐっと引き上げてくれて、とても幸せな気持ちになれます」

家族揃っての食卓はもちろん、ゲストを招いてみんなでわいわい食べるのも楽しい鍋料理。伊賀土の土鍋で定番メニューをワンランクアップさせてみませんか? 鍋のふたをあけるのも楽しくなりそうです!

(撮影/大場千里)

取材したのはこちら

雨晴_金子憲一さん

“雨の日も晴れの日も心からくつろげる暮らし”をコンセプトに、和食器を中心とした工芸品を取り扱う「雨晴」。店に並ぶのは、ディレクターを務める金子憲一さんが、日本各地の工房や作家のもとを訪れ選んできたもの。「これからも大切に引き継いでいきたい日本に古くから伝わる感性。そして今の暮らしになじむもの」を基準にしたハイセンスなセレクションは、プロの料理人にもインテリア通にも大人気です。

東京都港区白金台 5-5-2
tel.03-3280-0766
11:00 ~ 19:30  水曜休

雨晴(あまはれ)/AMAHARE