「マイ箸」があるのは日本だけ。そんな、お箸にこだわる国の最新トレンド

日本人にとってもっともなじみ深いカトラリーといえば「箸(はし)」。その様や立ち位置に変化はないように感じられますが、箸にもトレンドがあり、今まさに変革期なのだとか。合羽橋道具街の老舗箸店「はし藤本店」で今どきのお箸事情を取材してきました。

日本以外にも中国や韓国、ベトナムなどアジア圏では、箸を使う国がたくさんありますが、他の国と比べたときに決定的な違いがあります。それは日本には自分専用の“マイ箸”文化があるということ。つまり日本人にとって箸は、とてもパーソナルかつ特別な存在なのです。「日本ではシンプルな箸から五角、八角、丸など形状もさまざまで、素材も竹や黒檀、杉、栗、りんごなど種類豊富に揃います。つまり、それだけ選択肢が多く、おのおのが自分好みの箸を手にすることができるのです。さらには近年、暮らしの質を上げることに注目が集まることを受け、日頃使う箸への興味関心も高まっているように感じます」(はし藤本店・マーケティング&海外営業部 部長 海宝護さん)

長年箸業界に携わる海宝さん。「見た目はもちろん、持ち味も箸それぞれに特徴があります。ぜひ試し持ちをしてご自身にフィットするマイ箸を見つけていただきたいです」

海宝さんいわく、箸にも流行がある!とのことで最旬の箸トピックを教えていただきました。

目次

1膳1万円以上!
木肌の手触りが楽しめる無垢材の
高級箸がじわじわ人気

竹のフォルムを最大限に活かした
味わい深い、京都の竹を使った節箸(ふしばし)

箸の先端が細く掴みやすく、実務能力が高いのも魅力。竹箸11,000円(税込)

以前は素材に関係なく華やかな塗り箸がブームだったのが、最近は良いものを長く丁寧に使いたいという人が増え、天然素材を活かした上質な箸が人気だとか。「塗り箸と違い、素材重視の箸は1膳1膳、風合いが違うのが魅力。例えばこちらの箸は、1膳のなかに3カ所の節がついた希少な箸です。このような形状にできるのは、竹の根っこの部分だけ。一度手になじむとその使い心地がやみつきになるほど。また竹箸ならではの繊細な箸先が美しく、細かい仕事も楽々こなします。箸で1万円以上というととても高価に思えますが、365日1日に複数回使うことを考えると決して高すぎる買い物ではないのではないでしょうか」

さまざまな木材を組み合わせて作る伝統工芸、
箱根寄木細工の箸は、見た目も楽しい1膳

2人の若手職人が手がける繊細な一品。箱根寄木細工箸(箱根の木)11,000円(税込)

こちらはみずき、桜、ケヤキなど、箱根山中で採れた木だけを使って作られた箸。「箱根の伝統工芸である寄木細工の職人が加工し、香川の欄間職人がカンナ削りを担当するという、手間をかけて作り上げたられた一品です。色や木目、木肌の異なる天然木を寄せ合わせて作られた箸は見れば見るほど美しく、食卓に彩りを添えてくれます。ほどよい重量感で使い勝手が良いのも人気の秘密だと思います」

味わいも変わってくる!? 料理の中身に
合わせた箸の使い分けが進行中

少し前に、納豆専用の太い箸が注目を集めたように、食事の内容によってそれぞれに適した箸を使い分ける人が増えています。「太い箸で魚の細かい骨をとるのは難しいですし、塗装されたつるっとした箸で豆腐を食べるのは困難。おいしくスマートに食べるためにも箸の使い分けが生まれたのは必然的。ただのブームに止まらず、内食化、中食化が進むと思われるこれからはスタンダードになるのではと思っています。ちなみに私も魚用、肉用といくつかお気に入りを使い分けていますが、口当たりが全く異なるので、料理の味わいにも関係してくるので使い分け、ぜひしていただきたいですね」

ボリューミーな肉料理や太い麺類には
しっかり掴めて安心な「極太箸」

匠の箸 880円(税込)

「ハンバーグやステーキなど、肉料理には太めの箸がおすすめです。というのも、ずっしりと重量のある食べ物は、切ったり掴んだりするのにある程度力が必要です。極太箸ならすべらずしっかり掴めるので、こうした食事に合っています。うどんなど太めの麺類にも向いていますね」。さらにこの箸は、持ち手部分が八角なのに対して、箸先は四角に仕上げているのが特徴。箸先に角(エッジ)があることで、食材がより掴みやすくなっています。

焼き魚や刺身、繊細な和食には
小回りのきく「極細箸」がぴったり

極細箸 2,200円(税込)

「肉料理と違い、魚料理は小骨をとったりと細かな作業が必要になってきます。そんなときは、手の動きが伝わりやい細めの箸を使うとスムーズです。繊細な盛り付けの和食などにも、細い箸があるときれいに食べることができるのでひとつあると便利です」。こちらの商品は、高温・高圧の釜で人工的に燻(いぶ)した燻しスス竹を使用。ただ細いだけでなく、上品さも感じられる味わいのある佇まいが魅力です。

国産割り箸が復権!
個性ある日本の割り箸シリーズは
パーティにもぴったり

「はし藤本店」に並ぶ地域別の割り箸。地域によって色や素材感が違うので、眺めているだけでも楽しいです。

自宅にゲストを招いて食事をする際、ちょっと迷うのがどんな箸でおもてなしするか。一般的な割り箸だと味気ないし、かといって普段使いの箸だと衛生的に受け付けないゲストも。「確かに、以前は使い回しが効くプラスチック製のエコ箸が外食店でも人気でしたが、最近は他人が使った箸を使うことに抵抗を覚える人が多く、徐々に割り箸に戻すお店が増えています。割りばしと聞くと外国製の安価なものを想像する方もいらっしゃるかと思いますが、最近は国産の割り箸も認知されつつあります。奈良や高知、なかには東京・奥多摩地域の杉を使ったものもあり、それぞれに色味や香りに特徴があります。各地の地場産業を応援する意味でも、こうした割り箸でのおもてなしはとてもスマートだと思います」。ちなみに割り箸も、使い終わったら捨てられる=他の人が使いまわさないという意味で、マイ箸同様に箸を個人的なものと捉える日本人の考え方が根底にあるようです。

香り、手触りと多種多様!
日本の産地別 割り箸

日本の産地で選べる割り箸/写真左から「神奈川県 小田原産 杉の箸」220円、「奈良県 吉野産 桧の箸」220円、「北海道 北海道産 椴松(とどまつ)の箸」220円(全て税込)

主に建材の端材や間伐材を利用して作られた産地別の割り箸。現在「はし藤本店」では、南会津や広島など、全国16地域の割り箸を取り扱っています。「産地によって特色もさまざま。吉野産は桧の良い香りが楽しめますし、小田原産は美しい色と艶が魅力。木が異なれば風合いも、手触りも異なりますので好みのものを探してみてください」

〈おまけ〉
今のお箸は適正サイズなのか
簡単なチェック法を伝授!

靴と同じで、箸も自分の手に合うサイズのものを選ばないと使いにくく、料理のおいしさも半減してしまいます。では理想のサイズとはどのくらいなのでしょう? 海宝さんに簡単な測り方を教えてもらいました。「親指と人差し指を直角にしたときの、指先の対角線の長さを『一咫(ひとあた)』と言います。箸の理想のサイズは、『一咫半』。つまり、親指と人差し指を直角にしたときの対角線の長さの1.5倍が自分にぴったりのサイズということになります」。早速自宅の箸を測ってみましたが、やや長めであることが分かりました。不自由さは特段感じませんでしたが、少々くたびれてきたのでこれを機に買い換えようかなと思います。

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箸はただ食事をするだけのツールに止まらず、暮らしにゆとりをもたらすものへと進化していました。年末年始へと暦が加速する今こそ、マイ箸を見直すいいタイミングかもしれません。

 

(撮影/相澤琢磨)

取材したのはこちら

東京・浅草。かっぱ橋道具街に店を構える箸専門店。創業1910年。全国各地から取り寄せたこだわりの箸を提案しています。国内のみならず、海外にも積極的に出向き、箸と日本の食文化の魅力を発信しています。

東京都台東区西浅草2-6-2
9:00〜17:00 日祝休
Tel.03-3844-0723

はし藤本店

http://hashitou.co.jp