7時間がベスト!介護の原因第1位「認知症リスクを減らす」鍵は睡眠にあり

「人生100年時代」と言われる今、いかに健康で自立した生活ができるかが重要です。そのために意識したいのが健康寿命。まだ先のことと思うかもしれませんが、健康寿命を延ばすためにしておくべきなのが認知症予防で、これには睡眠改善が効果的。脳科学の見地から専門ドクターに取材してきました。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。厚生労働省の発表によると、日本女性の平均寿命がおよそ87歳なのに対し、健康寿命の平均はおよそ75歳。その差が12年もあるのです。

目次

2025年には高齢者の5人に1人が
認知症!? 健康寿命を延ばすには
まずこの対策が最も重要

平成28年「国民生活基礎調査」によると、介護が必要になる要因の1位が認知症です。平成29年「高齢者社会白書」では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるという推計も出ています。せっかく平均寿命が延びても、健康でなければ意味はありません。平均寿命と健康寿命の間が12年も空いてしまうのは、その間に健康を害してしまう人が多いから。その原因のひとつが認知症なのです。

出典:平成29年「高齢者社会白書

医療技術の進歩により、長生きできるようになったというのも否めない事実ですが、せっかく長生きできるのであれば、元気に、制限なく過ごしたいですよね。脳の学校代表であり、脳画像診断医として胎児から104歳までのあらゆる脳を見てきた医師、加藤俊徳先生に健康寿命を延ばす秘訣を聞いたところ、回答はとてもシンプル。「まずは認知症(※ここでいう認知症とはアルツハイマー型認知症のことを指しています)などのリスクを減らすこと。そのためにはよく睡眠をとること」だというのです。その理由を詳しく見ていきましょう。

不十分な睡眠時間が
認知症リスクを増やしていく!

年をとると、だんだんと夜眠れなくなり、朝も早く起きるようになります。しかし、それは死に至る病の始まりだとか。「健康寿命を延ばすために最も大切なのは、適切な睡眠時間をとることです。世界的に見ても、40代の女性が、最も睡眠時間が少なく、2人に1人は1日6時間以下だというデータもあります。そもそも、睡眠には記憶を定着させるという大切な役割があるんです。深い眠りは血圧を下げ、それが引き金となって記憶が定着することが分かっています。ですから、きちんと寝ないと十分な記憶力は発揮できないのです。そして十分な眠りにより記憶が定着することが、将来の認知症の予防にもつながります。また、睡眠時間が、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間の人を比較すると、睡眠時間7時間の人を底辺に、V字でうつ病の発症率が上がることも分かっています。睡眠が脳を安定させているという裏付けですね。つまり、心身の健康は一にも二にもきちんと眠ること。要するに、1日の適切な睡眠時間の目安は7時間です」(加藤先生 以下同)

睡眠不足が続くことで
脳に老廃物がたまることが問題

体には知らず知らずのうちに老廃物がたまり、リンパ腺を通して排出されますが、実は脳にも老廃物がたまるんです。「人は深い眠りに落ちると血管が縮まり、その部分のリンパ管が開くことで、脳を取り囲む髄液へ老廃物を排泄する機能が高まります。この機能は起きているときにも働きますが、睡眠中はおよそ1.5倍。つまり十分な睡眠を取らないと、老廃物が排出されにくく、どんどん脳細胞にたまっていってしまいます。脳内の老廃物とは『アミロイドβ』という物質ですが、これが脳にどんどん沈着し、その後さらにタウタンパクが沈着することで海馬が萎縮してしまうのが、いわゆる認知症です」

眠るといっても寝だめはNG!
生活リズムを整えた上で、
7時間睡眠を目指しましょう

十分に眠ることでアミノロイドβがたまることを防ぎ、その結果認知症リスクを減らして脳が安定することで、健康寿命を延ばせることが分かりましたが、ただ寝ればいいというわけでもないんです。「大切なのは、ただ単に寝るのではなく、生活のリズムを作ることです。また平日は5時間しか寝られないから、週末に寝だめをするというのも十分ではありません。人間には、『サーカディアンリズム』という、人間に本来備わっている体内時計があります。健康寿命を延ばすには、朝起きて夜寝るという体内リズムに合わせて食事や睡眠をとることが大切。ご自身のリズムを見つけて、継続的に7時間睡眠を確保してみてください。また、20代、30代と睡眠時間を削って働いてきた人でも、今から睡眠時間を増やし、認知症を予防することで健康寿命を延ばすことはできます。現在、平均寿命と健康寿命の差は12歳ぐらいですよね。認知症は、だいたい78歳前後から増えてきますが、しっかりと睡眠をとることで、認知症の進度を遅らせることも可能です。なので、ご自身はもとより、ご両親にもぜひ7時間睡眠を勧めてください」

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日本人は、睡眠時間を削って頑張ることが美徳とされる傾向がありますが、大間違い!と加藤先生。確かに睡眠時間が減ると、仕事も家事も効率が下がることはうすうす気づいてはいましたが…(苦笑)。人生100年時代。少しでも健康に長生きしたいので、まずは「毎日の睡眠7時間」を目標にしていきたいと思います。

おまけ
認知症を誘引する、脳の老廃物
=アミノロイドβが増える2大原因

睡眠不足が続くと、脳にどんどん老廃物がたまります。それがアミロイドβという物質なわけですが、その物質が増えてしまう原因は、睡眠不足だけではないことが分かっています。

トランス脂肪酸や酸化した食べ物の摂取

「マーガリン、菓子パンの中に使われているショートニングに多く含まれているトランス脂肪酸や酸化している食べ物は、アミノロイドβを増やすので避けるべき食べ物。特にトランス脂肪酸は動脈硬化にもつながりますし、甘い飲料やお菓子などによる糖分のとりすぎは糖尿を招いたり、判断力の低下を招くなど、脳の健康にとって悪影響を与えます。これらの摂取はなるべく0を目指し、バランスの良い食生活を心掛けてください」

運動不足や夜間の食事も睡眠不足の要因に

運動不足はもちろんこと、腸の休息時間がすでに始まっている夜10時を過ぎての食事もやめたほうがいい習慣です。特に夜間の食事は、本来なら体を休めるべき時間帯に胃や腸が動くことになります。このことはサーカディアンリズムを狂わせ、ひいては体に悪影響を与えます。「もちろん、これらのことは、健康寿命を延ばすうんぬん以前に、健康を維持する上で、年齢性別問わず気をつけるべき事柄です。さらに、こういった運動不足や不規則な食事時間といった乱れた生活を続けていると、体内のリズムが乱れ、睡眠不足を招き、前述したようにアミノロイドβが増えることにもつながってしまうのです。少しでもそれを避けるため、程よい運動を取り入れ、規則正しい時間に食事をとるようにしましょう」

取材したのはこちら

医師、医学博士、脳科学者として述べ1万人以上のMRI画像とともに脳と人の生き方の関係性を分析。2006年には「脳の学校」を創業し、予防脳医療を実践。「脳が若返る最高の睡眠:寝不足は認知症の最大リスク」を始め、数多くの書籍を出版。

脳の学校 代表 加藤俊徳先生

https://www.nonogakko.com/drkato/