リビングと他の部屋が別棟⁉ 郊外に平屋を建てる楽しさ

テレワークの普及に伴い、広い一軒家や自然の多い環境を求めて郊外を選ぶご家族が増えています。昨年、多摩市に住居を構えたご夫婦に、105坪ゆったりスペースで暮らす楽しさやコロナ禍で感じたメリットなどを取材。2棟をつなげたようなユニークな平屋建てのお住まいを見せていただきました。

2019年7月に多摩市の閑静な住宅街に新居を構えたSさん。共に都内の出版社に勤めるご夫婦の2人暮らしです。敷地面積は105坪、建物は143㎡(中庭スペースを除く)と、都心ではなかなか実現が難しい広さが魅力ですが、目を引くのはそのデザイン。二つの建物を左右につないだようなユニークな平屋建てです。

目次

2棟に分かれた横に広いS邸は
「採光のいい楽しい家」がコンセプト!

2階建てではなく平屋建てにした理由は

  • 建ぺい率ぎりぎりまで敷地を使うことができる
  • 2棟を中庭でつなぐ設計をしたかった
  • 天井を高くできるので、開放感がある
  • メインテナンスも2階建てより楽
  • 固定資産税が2階建てより安い

「この家のテーマは“採光のいい楽しい家”です。中庭を真ん中にして右をプライベート空間、左を友人たちと楽しめる空間に分けました。そのため、生活動線がスムーズではないので家の中でもよく歩くことになりますが、中庭が見える大きな窓からの採光は抜群です」。どの部屋も明るくて風通しがいいことも平屋建ての大きなメリット。「天井を高くとれたことで、屋根裏的なコージースペースを設け、その途中の空間に書斎を作ることもできました」。コロナ自粛中もこうした作りから、Sさんと奥さまの仕事スペースやちょっとひとりになりたいときなど空間を分けることができて結果的によかったとのこと。

中庭を境にリビングとプライベート空間を
左右に分け友達を招いても気負わない設計

調光できるダウンライトを採用。休日の夜は照明を落とし、晩酌をしながら趣味の映画鑑賞をご夫婦で楽しんでいるそう。4畳半の和室のゲストルームは、スクエア型の琉球畳や和紙のブラインド、土壁などを用いた和モダンな空間。ゲスト用トイレも完備。

7.5畳のオープンキッチンダイニングと、17畳のリビングスペースが一緒になった開放感のあるリビングダイニング。「一軒家のメリットはゆったりとしたリビングが作れることにつきます。天井を3mと高めにして、より広々と見える空間を意識しました。また、リビングを南向きにしたことで、大きな窓からは自然光がふんだんに入り、上部の小さな窓を開けておけば、すがすがしい風が入ってくるのでとてもリラックスできます。リビングの隣には友人や家族が泊まれるように、和室のゲストルームを配置しました。季節の良いときには中庭でBBQをしますが、遊びに来てくれた友達も時間を気にせずにくつろぐことができると好評です」

リビングと他の空間を離したことで
コロナ禍でも夫婦2人がストレスを感じず
仕事をする場所も確保できました

〈左〉屋根裏に続く階段脇のデッドスペースに作った書斎。ドアがないものの壁に囲まれ、どこか落ち着く空間に仕上がっています。〈右〉天井の低い屋根裏スペースはSさんの秘密基地。

高い天井のおかげで作ることができたロフトスペース。ロフトへつながる階段途中の右サイドには書斎を設け、デッドスペースを上手に活用。「書斎、屋根裏、中庭を挟んで離れたリビングなどひとりになれるスペースがいくつかあるため、夫婦共にリモートワークが増えましたが、相手を気にせず仕事に集中することができます」。またZOOM会議やオンライン飲み会の機会も増えたそうですが、気兼ねせず大きな声を出せたりするのも助かっているのだとか。「以前住んでいた世田谷のマンションだったら、リモートワークで夫婦の空間を分けるのは難しかったですね。ロックダウン中もノーストレスで過ごすことができました。部屋同士が離れているのは、横に広い平屋建ての大きなメリットです」

お客さまを招いたときに生活感を見せない
工夫も随所に盛り込みました

写真提供:野中元

リビングと他の部屋を離したことで、プライベートを確保している点がS邸の魅力ですが、お客さまが集まる場所にも生活を感じさせない工夫を施しました。

食器や調味料、調理器具まで
引き出しやパントリーで隠す収納に

床の木の色と似たウォルナット色のアイランドキッチンは『Kitchen house』のもの。電子レンジや炊飯器など生活感のある家電はすべてパントリーに収納。大きなごみ箱もパントリー内にまとめていました。

余計なキッチン用品や調味料が一切出ていない、モデルルームのようなキッチン。料理がしやすいように作業台の幅を広く取ったキッチンでうどんを打つこともできるそう。「2人とも料理が好きなので、キッチンは使い勝手がいいようにいろいろと工夫しました」。Sさんがこだわった点は、生活感が出てしまうものは表に出さずにすむ収納を作ったこと。また作業のしやすさを考え、背の高さに合わせシステムキッチンの高さをレギュラーサイズより少し高めの85㎝に設定。「キッチンの右奥には大きなパントリーを作りました。キッチン内にも収納スペースをたくさん取り、調理器具や調味料などすべてのものを収納することが可能に。料理も掃除もしやすく見た目も美しい希望通りのキッチンに仕上がり大満足です」。こんなことが可能なことも、広くスペースを確保できる郊外の一軒家だからこそ。

大きなシューズクローゼットにものを
まとめて何も置かない玄関を実現

正面の大きな窓から中庭が見渡せる開放的な玄関。リビングルームのドアに通じる廊下の壁上には、ゲスト用のコートをかける折りたたみ式のフックを奥さまたっての希望で設置。

二つの棟をつなぐ廊下の横は中庭。天井までの大きな窓を設けた中庭から光が入り、明るく開放的な玄関からは、中庭の中央に植えたミルキーウェイが出迎えてくれます。ここでの注目は玄関脇に作った大きなシューズクローゼット。「夫婦合わせるとかなりの靴があるので、玄関が散らからずにまとめられるスペースとしてシューズクローゼットはマストでした」。クローゼットのドアを閉めれば玄関からは一切靴が見えません。「玄関は家の顔なので、お客さまが来たとき靴が出しっ放しになっていることは避けたいと思って大容量のシューズクローゼットを設けて正解でした。シューズクローゼットから直接家の中に入れる導線も確保。着ていたコートやゴルフクラブ、傘などもここにしまうことができます」

ロックダウン中に家と向き合い
楽しめる範囲で庭いじりをスタート

家を新築し約1年。広々とした平屋建てならではの自由で豊かな暮らしを楽しんでいるSさんご夫婦。「自粛中に芝刈り機を手に入れたので、少しずつ庭の手入れをしています。今後はハーブやちょっとした野菜を育ててみるのも楽しそうですね」。最近は都から助成金も出ると噂のソーラーパネルの設置にも意欲的。自宅で蓄電できれば災害などによる停電時のリスクヘッジにもなりますね。

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家を考えたときに、予算に合わせて少し都心から離れることも考慮してみると、広々としたお洒落な居住空間も、老後を見据えたバリアフリーの家造りなどもかないます。自分がいちばん大事にしたいことは何か、日々の暮らしをどう考えるかについて見直してみると、もしかしたら都心で暮らすことへの優先順位はそれほど高くないということに気付く方も意外と多いのではないでしょうか?