冬のみならず、夏はエアコンによる肌寒さが冷え性の人には辛いものです。病気というわけではないけど、辛い冷え性に悩んでいるなら、“漢方薬”を試してみることも一案。冷え治療の第一人者で漢方医でもある川嶋朗先生に、症状別にどんな漢方薬が考えられるのか、概略を教えていただきました。
そもそも女性に多い冷え性体質。「女性は男性に比べてもともと筋力が少ないため、熱を生み出しにくく、さらに現代の暮らしが冷えに追い打ちをかけています。とくに今年の酷暑は、炎天下とクーラーのきいた屋内との温度差が激しく、そのために体温調整機能が麻痺してしまい、クーラー病を患っている人も少なくありません。東洋医学の世界には、「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」という概念があります。気はエネルギーの源、血は血液、そして水はリンパ液などの体液。これら3要素が体内でバランスよく巡ることで抵抗力や自然治癒力が保たれ、健康でいられると考えられています。したがって、冷えも同様に気・血・水のバランスが乱れ、体内でスムーズに巡っていない状態を指します。この状況を改善するために使われるのが漢方薬なのです。ただ、これら三つのうちどの要素が乱れているかは個々の体質や体調によって異なるので、冷えにはこの漢方薬が効く!とは一概には言えません」(川嶋朗先生・以下同)。ただし、症状を絞り込んでいくことで、大まかに分別することができるそうです。
目次
川嶋先生に教わった、冷え性体質の
8つの分類と最適な市販の漢方薬
冷えが気になるのなら、まずは市販の漢方から試してみるのも一案です。先に説明したように漢方はその症状によって処方は異なりセンシティブなもの。下記のチェック項目を確認し該当項目の多い漢方をまずは試してみてはいかがでしょう。
※湿疹などの副作用が出た場合は速やかに服用を止め、専門医の診断を受けてください。
1.頭痛や肩こりを伴う冷えには
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
虚弱体質・貧血気味の女性に古くから処方されてきた冷え性の漢方薬。体を芯から温めて水分代謝を促し、余分な水分を取り除くとともに、冷えやむくみを和らげます。
こんな自覚症状が!
◻︎肌の色が白い
◻︎貧血ぎみ
◻︎月経異常がある
◻︎むくんでいるもしくはむくみやすい
◻︎頭痛がある
◻︎肩こりがある
◻︎動悸がある
効能および効果:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴りになどにも。
2.頭痛やめまいを伴うストレス性の冷えには
加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスでガチガチに凝り固まった体をほぐし、血の巡りをよくしてくれる漢方薬です。不安や緊張からくる手足の冷え・のぼせ感を改善します。
こんな自覚症状が!
◻︎不眠、不眠がち
◻︎不安な気分が強い
◻︎のぼせを感じる
◻︎うつ状態である
◻︎頭痛がある
◻︎肩こりがある
◻︎めまいを感じる
◻︎その他不調を多く感じる
効能および効果:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症)、不眠症に
3.胃腸が弱く、風邪をひきやすい
冷え性タイプには真武湯(しんぶとう)
体内の水の巡りが悪い方向けの漢方薬。全身の水の滞りを解消し、体を芯から温めます。虚弱体質で、強い冷えから下痢をしがちな方に◎。
こんな自覚症状が!
◻︎下痢をしやすい
◻︎強い疲労感がある
効能および効果:下痢、急・慢性胃腸炎、胃腸虚弱、めまい、動悸、感冒、むくみ、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみに
4.足は冷えているのに頭はのぼせる
“冷えのぼせ”の方には
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
気づくとシミやアザができている、下半身は冷えているのに頭はのぼせやすい、そんな方には桂枝茯苓丸で血の滞りを良くして冷えを改善します。
こんな自覚症状が!
◻︎冷えとのぼせを繰り返す
◻︎月経異常がある
◻︎下腹部に違和感と圧痛がある
効能および効果:月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきびに。
5.腰から下の冷えが特に気になる方には
苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
尿量が多く、腰やお尻に冷えを感じる方は、体内の水が滞っている状態です。苓姜朮甘湯で水分の偏りを正常に戻し、冷えを改善することができます。
こんな自覚症状が!
◻︎腰痛がある
◻︎脚が痛い
◻︎下半身の冷えを感じる
◻︎尿が多い
効能および効果:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏に
6.イライラ&便秘しやすい人には
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
ストレスが溜まりやすく、のぼせを感じる人は、血の巡りが悪く滞りがちな瘀血タイプ。桃核承気湯で血と気の巡りを正して冷えを改善。
こんな自覚症状が!
◻︎のぼせを感じる
◻︎便秘、もしくは便秘ぎみ
◻︎精神症状がある(月経時や産後の精神不安)
◻︎下腹部(とくに左下腹部)に圧痛がある
効能および効果:月経不順、月経困難症、月経痛、月経時や産後の精神不安、腰痛、便秘、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)、痔疾、打撲症に
7.手足がジンジンしびれる末梢冷えタイプは
当帰四逆加呉茱萸生姜湯
(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
体力が中等度程度以下で、とくに下肢の冷えが強い方には、当帰四逆加呉茱萸生姜湯で体を温め、熱をつくる働きをサポート。体の内部から冷えを改善します。
こんな自覚症状が!
◻︎手足に冷えを感じる
◻︎しもやけがある、しもやけになりやすい
◻︎冷えると腹痛が起きる
◻︎腰痛がある
◻︎四肢(手足)が痛い
◻︎頭痛がある
効能および効果:しもやけ、頭痛、下腹部痛、 腰痛に
8.疲れやすく、手足のしびれからくる
冷えには八味地黄丸(はちみじおうがん)
体力が低下しているこのタイプの方には、熱を作り出す“元気”を取り戻す八味地黄丸がぴったり。「気」「血」「水」を増やし、体内に巡らせ、体を温めます。
こんな自覚症状が!
◻︎腹痛がある
◻︎しびれを感じる
◻︎夜中、トイレに起きる
◻︎性機能障害がある
効能および効果:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ、高血圧に伴う症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れなどに。
「万年冷え性だから…」なんて諦めるのはまだ早い! 漢方を普段の生活に上手に取り入れて、根本的な冷え改善に努めてみては?
監修
1957年生まれ。北海道大学医学部在学中に東洋医学研究会を創設・主宰。東京女子医科大学大学院修了。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学後、東京女子医科大学准教授に。現在は東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授および一般財団法人東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門担当。近代西洋医学と代替・相補・伝統医療を統合した医療を目指して日々、患者と向き合っている。ベストセラー『心も体も「冷え」が万病のもと』(集英社新書)ほか、著書多数。