かなり秋めいて涼しく過ごしやすくなってきたのに、夏よりも体のだるさや疲れを感じていたりしませんか? それは夏バテの延長にやってくる“秋バテ”かもしれません。その緩和には、漢方が一役買ってくれそうです。
秋バテの原因は、夏の間に乱れた自律神経に秋の気候特性が関係していると語るのは、冷え治療の第一人者で漢方医の川嶋朗先生。「車もパソコンも日常になった今、体はいつも快適な状態で体を動かす必要も少なくなりました。こうしたストレスフリーの環境に慣れきった日本人の筋力、体力はどんどん低下し、気温の変化に順応できなくなっています。夏の暑さと、夏の間にエアコンで過度の冷えた体の不調が夏バテの主な要因ですが、秋の朝昼夜の寒暖差や台風など低気圧の影響で、体調不良に拍車がかかるのが秋バテとして自覚されるようになるのです。漢方の世界では、人間の体は「気(エネルギー)」「血(血液)」「水(リンパ液)」の三要素で構成されると考えられていて、これらがバランス良く体を巡っている状態が“健康”とされています。秋バテはこのなかの「気」が不足している状態。すなわちもともと持っていた体力・筋力の低下、代謝不良というわけです。漢方だけでどうこうするのにも限界がありますが、気を補う漢方を飲むことで、元気な体作りのサポートは可能です」
目次
疲れた体を元気に!
秋バテを改善する漢方はこの3つ
これから紹介する漢方薬は、活力の元となる“気”を補う薬ですが、体質や症状により大まかに3つに分けられます。下記のどの症状に当てはまるのかまずはセルフチェックを。※ただし、湿疹などの副作用が出た場合は速やかに服用を止め、専門医の診断を受けてください。
1.元気も食欲もない、疲れやすい、加齢による衰えを感じるあなたには
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
「気」と「血」が不足している虚弱体質の方には、人参養栄湯で消化器機能を改善。「気」と「血」を補いながら、栄養がすみずみまで行き渡る元気な体へと導きます。
気になる自覚症状は…
◻︎食欲がない
◻︎疲労感がある
◻︎なんとなくやる気が出ない
◻︎同世代の人と比べて咳や痰が気になる
効果および効能:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血に。
2.だるさや寝汗、手足の冷えが気になるあなたには
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
全身が弱り、「気」も「血」も不足している方に“補剤”として使われる十全大補湯。全身の状態を良くして、元気を回復。体力をつける漢方薬です。
気になる自覚症状は…
◻︎疲労感がある
◻︎食欲がない
◻︎寝汗をかく
◻︎手足の冷えを感じる
効果および効能:病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血に。
3.全身がだるく、食欲がないあなたには
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
「中(体の内側)を補い、気を動かす」という意味の補中益気湯。胃腸の機能を良くし、食欲を出すことで気を補い、全身に巡らせながら元気を取り戻します。
気になる自覚症状は…
◻︎倦怠感がある
◻︎胃腸が弱い
◻︎食欲がない
効果および効能:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、寝汗、感冒に。
現役医師がこっそり伝授!
良い漢方医を見分けるプチアドバイス
秋バテを含む体質改善に向けて、今後専門医に診てもらう予定がある方に川嶋先生からひとつアドバイス。「西洋医学と違い、東洋医学は症状だけでなく患者の生活習慣や食欲、健康状態なども問診し、診断の参考にします。好きな食べ物や週末の過ごし方など、症状とは関係なさそうな質問をしてくることがありますが、これは東洋医学ならでは。患者から有用な情報を得るための大切なことなのです。言い換えれば、症状だけを聞いて診断を下す医者は……あまり信用できるとは言えません。良い漢方医かどうかを見分けるポイントとして、上記に加えてきちんと脈診、舌診、腹診をすることも大切です」
今までなんとなくやり過ごしていた夏の終わりから秋にかけての体調不良。これを機に漢方生活で心身ともに根本改善してみませんか? 体の調子が良ければいらぬストレスからも解放されるはずです。
取材したのはこちら
1957年生まれ。北海道大学医学部在学中に東洋医学研究会を創設・主宰。東京女子医科大学大学院修了。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院留学後、東京女子医科大学准教授に。現在は東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授および一般財団法人東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門担当。近代西洋医学と代替・相補・伝統医療を統合した医療を目指して日々、患者と向き合っている。ベストセラー『心も体も「冷え」が万病のもと』(集英社新書)ほか、著書多数。