「ベッドでスマホ→すぐ寝落ち」は、「寝つきがいい」とは真逆な状態⁉

ベッドに入ったらバタンキュー。だから私は“眠れない問題”とは無縁だと思っているあなた、実は、その一瞬で寝入ってしまう状態は、慢性的に睡眠が足りていない可能性があります。すぐに眠れるのは健康的と思いきや、気絶級に睡眠不足なのかも⁉ その問題点を理学療法士の視点で解説します。

“眠り”についての研究はさまざまな研究がなされてきました。しかし、人がどうやって眠りに落ちるのかについては、まだ研究途中で分からないことだらけです。英ケンブリッジ大学の国際的な研究グループは、覚醒状態から睡眠状態へと移る、まどろんでいる間に実際に何が起きているのかを研究を行っています。
その研究所長である神経科学チームのトリスタン・ベキンシュタイン博士は、「覚醒から睡眠への「移行」は通常、5~20分続く。しかしこの間の状態は、人によって実にさまざまだ。すみやかに眠りに落ちていく人もいれば、乱気流のような状態で格闘する人もいる。まどろみ始めてから、また覚醒状態に戻る人もいる」と述べています(※出典:BBCNEWS|JAPAN「眠い、寝よう、そろそろ寝そう……もう寝た 寝るまでにかかる時間は」)。
確実なことは、眠りたいという衝動と起きていたいという衝動の間を「行ったり来たり」しているので、すっと眠りに落ちるわけではないということ。また、ベキンシュタイン博士も述べているように、本来、入眠は、寝床に入ってから、5〜20分程度まどろみタイムがあり、その後、深い眠りに入っていくのが自然な状態です。横になってすぐにバタンキューは、体がとても疲れていたり、睡眠が過度に足りていなかったりという危険な状態かもしれません。

目次

そもそも「寝落ち」は
インターネット由来⁉

「寝落ち」という言葉。最近になって耳にするようになった言葉ではありませんか? 改めて「寝落ち」の意味や言葉を調べてみると、「何かをしている途中にいつの間にか眠ってしまう」ことだそうです。元々は、インターネットゲームやチャットなどでよく使われていた言葉で、「寝落ち」は、「オンラインゲーム中に寝てしまって、接続が解除されてしまう」ことを表した言葉だったようです。また、睡眠時には眠るまでに5〜20分程度の移行期間があるとされていますが、その移行期間が全くなく、ベッドに横になるとすぐに眠ることも「寝落ち」と表現されています。

ベッドですぐ「寝落ち」する人は
眠りの浅い睡眠になっている可能性が

スマホを操作していて気がついたら寝ていた、飲酒をしていて気がついたら寝ていたなど、“何かをしていたときに気がついたら寝ていた”という「寝落ち」。本来、眠るために寝ているのではないので、当然浅い眠りになる可能性があります。

出典:厚生労働省 e-ヘルスネット「眠りのメカニズム

睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠という睡眠サイクルが約90分の周期で起こります。初めは深い睡眠のノンレム睡眠が数回繰り返され、だんだん眠りの浅いノンレム睡眠とレム睡眠のみになり朝を迎えます。レム睡眠は、寝ていても、脳が活発に活動している状態で、記憶の整理や定着が行われています。ちなみに、レム睡眠中は目がピクピク動く眼球運動が起こるのでRapid Eye Movement(急速眼球運動)からREM (レム)睡眠と呼ばれています。一方、眼球運動のない睡眠をNON-REM(ノンレム)睡眠と言い、脳が休息している状態で、脳や肉体の疲労回復のためにとても重要とされています。ノンレム睡眠には、眠りの深さにより4つの段階(睡眠段階)に分けられ、深い眠りのノンレム睡眠が、脳や心身の回復に非常に大切で、質の良い睡眠を得るためには、ノンレム睡眠が得られることがポイントとなります。浅い眠りの場合、深いノンレム睡眠がなくなるため、寝ても脳の回復が完了しないまま目覚めることになります。
何かをしながら「寝落ち」をすると、浅い睡眠のみになりやすく、深いノンレム睡眠が得られづらくなり、脳や体が回復しないまま朝を迎えます。これは、ベッドに入ってバタンキューの場合も同様。適切な移行期間を経ずに寝てしまうことで、浅い睡眠になりがち。すぐに寝つけているのに、日中、特に午前中に強い眠気を感じていたり、眠ったのになかなか疲れが取れないということがあれば、質の良い睡眠がとれていなかったり、脳や体が睡眠や休息を欲している状態だということも考えられ、何らかの問題が隠れている可能性が。また、夜、十分な睡眠をとっているのに、昼間強烈な眠気を引き起こす病気がいくつかあります。いびきなどが原因で慢性的な睡眠不足になる睡眠時無呼吸症候群や、夜十分睡眠をとっていても、昼間突然強烈な眠気に襲われて居眠りしてしまうナルコレプシーなどです。これらは早急に、医療機関を受診することが大切です。

日常生活の運動量を少し増やすことで
適切な入眠と深い眠りが手に入ることも

質の良い睡眠を得るためには、日中の活動量(運動)も大切になります。現代は便利と引き換えに「動かない」生活を送るようになりました。仕事は、デスクワークが中心で「脳は疲れているのに体は疲れていない」というアンバランスな状態に陥り、睡眠の質が落ちてしまったり、眠れない問題に発展したりします。運動が大切と言うと、いきなりスポーツジムでハードで激しい運動をされる方がいらっしゃいますが、まずは、日常生活の中で動く量を増やすことが継続性にも、ケガの防止にもつながります。エスカレーターやエレベーターを階段に変える、ちょっとそこまでなら歩くなど、こまめに体を動かしながら、徐々に運動の量や質を増やしていくことが大切です。適度な運動習慣を身につけることで、睡眠だけでなく、心身の健康全体にも良い影響をもたらします。

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仕事に家事にと忙しくしていると、寝落ちしてしまった経験が皆さんあると思います。しかし、仕事も家事も全ては健康が資本です。まずは、質の良い睡眠でパワーチャージをして、笑顔で楽しい毎日を送っていきましょう。

取材したのはこちら

一般社団法人睡眠body協会代表理事、理学療法士、健康経営アドバイザー、著者、講師。理学療法士として病院で見たものは、病気になりで二度と社会復帰できない、家族離散という悲しい現実だった。自分の健康は自分で整えることの大切さを伝えるため独立。自身の治療メソッドを体系化し、眠れない多くの人に広めるために講師の育成や全国での講演活動、企業における健康経営や企業研修、コンサルティング等を行っている。2020年8月に「一般社団法人睡眠body協会」を設立。自らのメソッドを伝え、健康な人を増やす養成講座を開催中。近著は『まんがでわかる ぐっすり眠れる体の整え方』(イースト・プレス)

理学療法士 矢間あや