若い頃は20時間くらい寝続けられる自信があったのに、40歳を過ぎ頃から早起きが辛くなくなってきたという人は多いと思います。でもこれはなぜ? 良いことなのか悪いことなのか、「加齢と睡眠」の問題を、一般社団法人睡眠body協会代表で理学療法士の矢間あやさんが語ります。
「若い頃はあんなに眠れたのに、今は昔のようには眠れなくなった」
「なんだか早起きになってしまって大丈夫だろうか?」
「布団に入ってもなかなか眠れなくなった」
こんな、お話をよく聞きます。
実際、年齢と共に、体力も落ち、髪の毛には白いものが混ざり、目も見えにくくなり…。体は加齢に伴いさまざまな変化が起こります。実は、睡眠も年齢を重ねると若い頃に比べて短くなっていきます。
目次
年齢と共に睡眠時間が
減るのは自然なこと
これは、年齢別の睡眠時間を現した図ですが、年齢を重ねるほど、深い眠りのノンレム睡眠が少なくなり、また、睡眠時間も減少しているのが分かります。では、睡眠時間が若い頃に比べて短くなったことで困ることは何かと言うと、日常生活のなかで元気にすごすことができれば特に問題ないとされています。上記の表によると、60代~70代の睡眠時間は6時間前後。若い頃より眠れなくなったのは普通のこと。悪い兆候ではありません。
人間、加齢に伴いさまざまな変化が起こります。これは、睡眠も同じことです。ただし、極端に睡眠時間が短い場合は、心身に影響を及ぼすことがあるので注意が必要ですし、どうしても寝付きが悪い、眠れないなどが習慣になっていて、日中強い眠気に襲われるなど心配な場合は、速やかに医師の診察を受けてください。
〈関連記事〉
本当に怖い「睡眠負債」今すぐできる返済法は?
では、なぜ年齢と共に睡眠時間は短くなるのでしょうか?
◆年齢を重ねると早起きになる理由①
睡眠が浅くなる
睡眠には深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠という二つの睡眠段階があるのは聞いたことがある方も多いと思います。ノンレム睡眠とレム睡眠は90分から120分間で交互に入れ替わり、起床時間が近づくにつれて、深い睡眠の時間が短く、浅い睡眠が多くなり朝を迎えます。ちなみに、ノンレム睡眠は睡眠の深さによってステージ1〜4の段階に分けられ、ステージ3〜4はより深い眠りと言われています。この3〜4の状態は「徐波睡眠」とも言われ、音や刺激があっても目覚めるのは難しい状態、すなわち「熟睡状態」とされています。
年齢を重ねると、眠りの深いノンレム睡眠が少なくなり、レム睡眠が多くなります。そして全体的に睡眠が浅くなる傾向にあります。浅い眠りが頻繁に訪れることが、早起きになる理由、早起きでもすっと起きられる理由のひとつです。また、齢をとると途中覚醒もおこりやすく、尿意や些細な物音で目が覚めてしまいます。夜中にトイレに行くことが増えてきたと感じているなら、それは年齢を重ねた証拠なのかもしれません。
◆年齢を重ねると早起きになる理由②
体内時計が早く進むようになる
また、私たちの体は地球の自転による24時間周期の変化に同調した「体内時計」を持っていますが、体内時計は年齢と共に実時間に対して前進すると最近の研究で明らかになってきました。体内時計の前進により、深部体温がより早い時間に低下し、より早い時間から上昇するため、夜は早く眠たくなり、朝も早く目覚めると言われています。
睡眠時間が短くなるだけではなく
年齢と共に寝付くまでの
時間が長くなる傾向も
面白いデータがあります。
寝ている時間は年齢と共に短くなっていくのに対し、布団に入ってから出るまでの、寝床にいる時間は年齢と共に増える傾向にあります。
寝ている時間は短くなるのに、寝床にいる時間が長くなると言うことは、眠れないまま寝床で時間が過ぎていくということです。若い頃は寝床に入り、15分〜20分もすると自然と眠れていたのに、年齢を重ね寝床に入ってもなかなか自然の眠りに落ちず、「眠れない」と悩まれている方は、意外に多いのではないでしょうか? しかし、日常生活のなかで元気にすごすことができれば特に問題ありません。布団に入ったのに「眠れない」と悩まれている方の解決方法は、ずばり!「潔く諦めて一度布団から出ましょう」です。悩んで陰鬱な時間をすごすよりも、精神的にもいいです。
人間は生命を維持するために、必ずどこかで眠くなるようにできています。なので、おおらかな気持ちを持って「眠くなったら寝る」と思って付き合っていくほうがいいと思います。ただし、眠くなるまで起きていると言っても、寝酒やパソコンやスマートフォンを使うなどはNGです。あくまで、自然な眠気が来るように、眠る前の時間を十分に味わい、自然な眠気を待ちましょう。
気持ちよく「寝付く」には
昼間の過ごし方も大切
さらに、睡眠と言うと、「夜」に意識が行きがちですが、昼間の行動がとても大切になります。年齢を重ねると、若い頃に比べて活動量が減少していきます。活動量が減り、体を動かさなければ当然、体は疲れないので「眠れない」という問題にも発展します。国内外の研究からも、運動習慣がある人は不眠が少ないという結果が明らかになっています。そのために、日中、日常生活のなかで積極的に外に出て太陽の光を浴び、体を動かすことが大切です。
年齢を重ねると、体にはさまざまな変化が起きるのと同様に、眠りの問題も若い頃に比べると変化していきます。睡眠量の減少は加齢に伴う自然な変化であることが大半です。ただし、日々の生活習慣に眠れない原因が隠れていることもあります。生活習慣を今一度見直し、日中はしっかり体を動かし、メリハリのある生活を心がけたいものです。
取材したのはこちら
一般社団法人睡眠body協会代表理事、理学療法士、著者、講師。
妊娠をきっかけに動く楽しさ大切さを知り独学でストレッチや解剖学を学ぶうちに海外のYogaに傾倒。離婚をきっかけに理学療法士に。病院で見たものは防げたはずの病気で二度と社会復帰できなくなる患者さんたちだった。出版をきっかけに睡眠を切り口に講演や研修、メソッドの普及などを通じて健康でやりたいことに挑戦する人を増やす活動を行っている。
矢間あやオフィシャルHPは以下から